随筆石と竹「聖なる韻」

少し寒気を帯びた聖堂に竹韻が響き渡った。

2012年12月20日、関西に縁のある若手尺八奏者7名による競演会『聖なる韻(ひびき)』が開催された。我々に続く世代に独奏の機会を作りたいと考えていた私が企画、構成したプロデュース公演である。

今年春に今回の出演者の一人と話していた折、「これから○○君たちと飲み会に行ってきます」ということを聞き、「君ら、集まって飲んでばっかりおらんと自主的な発表会もしなさい」と応え「ほな、僕が一回だけセットしたるわ」と引き受けたのが発端であった。

その日より自分の頭の中でコンサートのイメージを固め、会場選びと人選を並行して進めた。会場は交通至便で雰囲気が良く、尺八に合うところ、ということであまり大きくないホールやお寺などから当たっていった。そのうちに、私が若い頃に落語会や演劇などを盛んに催していた大阪・心斎橋の島之内教会が、現在コンサートにも貸し出しを行なっていることを知り、当たってみたところ快く使わせていただけることとなった。
出演メンバーは私の門人を含め6名がすぐに決まった。最初は“関ジャニ∞”をもじって8人構成で“関シャク∞”にするのも面白かろうと8名に当たったが、辞退される人もいて最終的に7人に落ち着いた。
メンバーに選曲を依頼しながらチラシを作成する段階になり、コンサートのタイトルを決める必要に迫られた。まだその頃には関ジャニ∞を少々引きずっていて、関ジャニ∞も現在は7人グループなので“関シャク∞”も“関シャク7”もありか、いやいや“七人の尺八侍”も面白いかな、などと夢想に耽った。ある日、せっかく教会の聖堂で演るのだから『聖なる韻(せいなるひびき)』はどうだろうと閃いた。結局これを採用としたが、自賛ながらなかなかカッコいいタイトルだと思う。
選曲は出演者にお任せで、古典に限らず何でもありとしたが、皆、それぞれが取り組んでいる流派の本曲を選び、キリッと引き締まったプログラムと相成った。

本番を一ヵ月後に控えた頃に、アンコールとして全員で賛美歌を演奏するのはどうだろう、とまたまた閃いた。昔、尺八三本会「風童」でやったことのある『あら野の果てに』に曲を決め、皆に楽譜を送りつけ、無理を承知でお願いをした。宗教上抵抗のある人には無理強いはしない、練習は当日のみ、ということを書き添えたが、全員快く(かどうかは不明であるが)引き受けてくださった。

いよいよ本番当日がやってきた。
前売券のはけ具合がわからずに少々案じていたが、開場時より途切れることなくお客様が来場し、また、当日券も予想を上回る出足で、蓋を開けてみると客席がほぼ埋まる盛会となった。
定刻を迎え、トップバッターの折本さんの粛々とした竹韻が聖堂に流れた。お客様は固唾を呑んで聴き入ってくださっている。演奏がだんだんと高揚し見事に吹きおさめられた瞬間、それが割れんばかりの大きな拍手にとってかわった。この拍手を聞き、自分が舞台上で味わうものとはまた違う喜びを感じ身体が震えた。この感激は7人目の奏者川崎さんが吹き終わるまで続いた。

川崎さんの素晴らしい演奏が終わり、私は出演者全員の紹介と御礼の挨拶のために舞台に立った。満足しておられるお客様のお顔を拝見し、心の中で「これで終わりとちゃいまっせー、まだありまっせー」とつぶやきつつ、アンコール曲を用意していることをお知らせした。アンコールの賛美歌はあえてどこにも書かずにいた。いわばサプライズである。7名による4部合奏が始まると、それまでの和の雰囲気から一転して教会の空気に変わり、お客様の、驚きながらも楽しんでくださっている様子が伝わってきた。演奏が終わると、一瞬の間を置きその日一番の拍手が聖堂を包み込んだ。独断でアンコール曲をもう一度押し売りしてアンコールのアンコールとし、盛会裡に記念すべき第一回目の『聖なる韻』が幕を閉じた。

このコンサートは全ての経費を入場料収入で賄い、赤字が出れば私が負担する、という少々冒険的な企画であったが、結果的に収支がほぼトントンとなり、無事に打ち上げ費用も賄うことが出来た。ありがたいことにお客様、出演者の両方からたくさんの謝辞を頂戴したが、一番嬉しかったのは私に違いない。

年末のお忙しい時期に足を運んでくださったお客様に感謝するとともに、出演の折本岳慶山さん、川崎貴久さん、小林鈴純さん、谷 保範さん、松本宏平さん、松本太郎さん、安田知博さん(五十音順)に心からの御礼と激励のエールを送りたい。そして、このメンバーが中心となって若手奏者が切磋琢磨し、尺八を啓蒙する催しを継続していただくことを切に願う次第である。
優秀な若手が多数存在する関西の尺八界はまだまだ大丈夫であることを確信した。

この喜びいっぱいのコンサートで私の今年一年の主なプログラムが終了した。
世相の不況を反映し、私の2012年も決して楽ではなかった。しかし、苦しい時ほど、私は人に何が出来るかを考えたい。人のために尽くしたい。それが私の考え方であり生き方である。

今年も一年ありがとうございました。

 

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