随筆石と竹「痴漢はあかんで、クスリもあかんで、ゼッタイにあかんで」

ハラダさんに続きアスカさんも捕まってしまった。どちらも昔から好きだった人なので少なからず衝撃をうけた。ハラダさんとは物書きの原田宗○さんのことで1990年頃からエッセイや小説のファンで、この駄文にもちょいちょい登場していただいた。アスカさんとはいわずもがな○○○&ASKAのASKAさんで、どこにも隠れる理由は無いのだけれど、独特の歌唱や曲の、実は隠れファンであった。

 

「痴漢はあかんで、ゼッタイにあかんで」とは大阪府の痴漢防止対策のポスターに書かれた標語で広く知られている。大阪風のくだけたところが秀逸なコピーである。

 

痴漢はもちろんあかん(大阪弁で“いけない”)が、クスリもあかん。本人のみならず周りの人の人生も狂わせてしまう。しかし、地位も名誉もある人がクスリに手を染めてしまう事例が後を絶たないのは一体全体どういう訳だろう。少し暗い気持ちになりながら私なりにその訳を考えた。

 

一度名声を手に入れ、世間から高い評価を獲得してしまうと、それを維持していくためにはもの凄い重圧がかかり続けることは想像に難くない。その重圧には様々なものが存在するのではないか。締め切りの重圧、稼ぎの重圧、人間関係の重圧、その他諸々私の想像もつかないものまで。

 

締め切りの重圧は最も想像しやすい。例えば作家さんなら、いついつまでに作品を書き上げなければいけない、ミュージシャンだと、この日までに楽曲を仕上げなければ予定されている発売日に間に合わない、などという恐怖の締め切り日が当然存在する。ヒット作があればあるほど周囲や世間の期待も高まり、それに応えなければならないと思うのは人として普通のことである。しかし、どんなに才能豊かな人でも好不調の波は有り、良い作品を出し続けることは不可能に近いことである。やはりこれが一番の重圧になるのだと私は思う。

 

また、それとは別に稼ぎの重圧もあるだろう。ハラダさんのように個人の物書きでも十分に小規模の会社ぐらいの人は関わっているであろうし、ましてやアスカさんほどのビッグネームになると少なくとも数十人、ひょっとすると三桁くらいの人の稼ぎを作り出しているのではないだろうか。

以前、友人のエキストラで演歌歌手の一ヶ月公演に出演したことがある。その当時のコマ劇場に行ってみてまず驚いたのは、公演に携わっている人間の多さだった。座長歌手の所属事務所のスタッフ(これだけでも結構な人数)、それに専属のバンドマン、会場スタッフ、よく訳のわからない怪しげな興行師、レコード会社の人、などなど、100人をゆうに超える人たちがコマ劇場のあちこちで、働いたり、談笑したり、ぼんやりしたりしていた。座長は毎日毎日ハードな2回公演をこなし、これらの人々の生活を支えているのだ。自分が看板であるからには決められた回数は休んだり、他の人に代わってもらうことは出来ない。務め上げねばならないのだ。そう考えると、スターとは何と大変な商売だと思った。

 

加えて、上と重なるが、自分の名前が大きくなればなるほどたくさんの人が関わりを持ってくる。当然ながら、仕事を遂行して行く上では好きな人とばかり関わって行く訳にはいかない。時には顔を見たくもない、同じ空気を吸いたくない人間とも渡り合って行かねばならないことも生じてくるだろう。この人間関係もある域を超えると精神的に大きなストレスやプレッシャーになってくる。

 

その重圧の数々は、私などの一般人には想像もつかないほど厳しく、また孤独を感じるものなのであろう。そこにスルスルとクスリの誘惑が入り込んでくるのだ。

 

ハラダさんもアスカさんも「クスリはあかん」ことぐらい充分にわかっていたはずである。それをやっていることが発覚すると、いろいろなところに迷惑がかかることも重々承知であったろう(アスカさんは医薬品として使われているアンナカだとおっしゃっているらしいが)。その一線を踏み越えさせてしまうクスリとはほんとうに恐ろしいものである。

 

 

このような重圧とは殆ど無縁に生きられている私は何と幸せかと思う。演奏会の日程やCDの制作などは自分の好きなように決めることが出来るし、この“ほぼ月刊イシカワ駄文”も特に厳然たる締め切り日を持たずに書きちらすことが出来ている(でも今号は間隔が開いちゃってごめんなさい)。しかし、何よりもかによりも、私にクスリなど必要無いと思えるのは、私が舞台に立った時に皆様から頂戴する拍手や声援がそれ以上の喜びを与えてくださるからである。たくさんのお客様からのあたたかい拍手に私の脳や身体は快感物質出まくりの状態になり、一度このハイな状態を味わうと病み付きになってしまうのである。ああ、ありがたや、ありがたや。

 

さあ、今日も明日もあさっても、皆様からありがたい拍手をいただけるように精進しよう。私には痴漢やクスリなどやっているヒマは無いのである。

 

 

 

 

 

随筆石と竹「痴漢はあかんで、クスリもあかんで、ゼッタイにあかんで」” に対して6件のコメントがあります。

  1. 田村浩一 より:

    大変面白く読ませていただきました。自己制御が大事ですね。

    1. admin より:

      田村様
      コメントありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。
      石川利光

      1. 田村浩一 より:

        4月27日お会いできることたのしみにしております。

    2. admin より:

      田村様
      私も舞鶴をとても楽しみにしております。よろしくお願いいたします。
      石川拝

      1. 田村浩一 より:

        舞鶴では大変お世話になりました。冠称に負けないよう頑張ります。今後ともよろしくお願いいたします。

        1. admin より:

          田村様 こちらこそお世話になりありがとうございました。素晴らしい会でしたね。免状授与式も感動的でした。またお会い出来る日を楽しみにしております。石川拝

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