随筆石と竹 「しがいない」

私の最大の恩師、横山勝也先生が旅立たれてから早くも5年の月日が流れた。

 さて、この5年の間に私は一体どれだけ成長出来たのであろうか。
門人には「気持があればいくつになっても向上することは可能です」と、偉そうなことを常々口にしているのであるが、いざ自分のことを考えると甚だ心許ない。

 尺八の道は一生修行の道であり、“ああ、この人は凄いなあ、かなわないなあ”という師がいらっしゃれば、教えを乞いにいきたいと考える私である。
実際に、古曲の達人でいらっしゃる五世荒木古童師には、横山先生の生前より、その枯淡の味わいの古曲をお習いしていたのであるが、数年前にホームであるアメリカに帰ってしまわれた。
また、私が若い頃にかわいがっていただいた村岡実先生も昨年大往生を遂げられた。
もうお一方、“私の時機が整えば根笹派錦風流の曲をぜひ教えてください”とお願いしていた名人、郡川直樹師も今年、この世から忽然といなくなってしまわれた。
 時機を掴むということは本当に難しいものである。

 
 私が横山先生に教えていただいた曲を人前で吹く機会がある際には、先生のビデオでおさらいをしてから本番にかけることにしている。今となっては「よくぞこのビデオが作られていたものだ」と感謝するばかりである。

 その同じビデオでも繰り返し鑑賞していると、聴こえ方や気づくポイントが、年を経る程に変わってくるところが面白い。それがわずかばかりでも向上していることの証であろうか。
しかしまあ、いつ鑑ても横山先生は凄い音であり、演奏である(同じビデオなので当たり前っちゃ当たり前なのであるが)。豊潤で艶のある音、鮮やかでキレッキレの音移り、大胆かつ繊細なフレージング、そして裂帛(れっぱく)の気合い、すべてが最上の形で整えられ、私の心をつかんで離さない。この、お人柄も含めた大名人から20年を超える時間、近くで学ばせていただくことが出来た私は本当に幸運である。

 何度も書いているが、私は先生の音やスケール感を出すことは到底出来ないので、先生のスピリッツを正しくお伝えしたい、と願い、レッスンをさせていただいている。
そのために心していることがある。
・独善的にならない。常に客観的に自分をとらえ、正道から外れていないか、楽をしようとしていないか、をセルフチェックする。
・受講者の前で見本の演奏をする時、また、一緒に吹く時は常に本番モードで全力で吹く。ミスも含めそのまま舞台へ出せるレベルを求める。
・先生がそうであられたように、まずその人のことを考え、その人の将来にプラスになることを適確に伝える努力をする。
・尺八を習得することは難しく厳しいものであるが、これほど面白いものもない、ということを全身で伝える。

若く元気な門人のレッスンでは本曲を6〜7曲ぶっ通しで吹くこともあり、それだけで疲労困憊してしまうが、暗譜の確認も出来、得難い大切な時間である。

 尺八を吹く人が激減している日本(海外では激増している、ホントの話)において、私のところへ習いに来る人は絶えない状況なので、ありがたいかぎりであるが、一点だけ残念なことがある。それは、曲を勉強する際、先達の音源をあまり聴かずに楽譜を拠り所として吹き始めることである。これは若い人だけでなく、すべての世代の人におしなべて見られる傾向と言える。
 私の演奏は“自信を持っておすすめ出来ます”とまではいかないので、「この本曲は横山先生の演奏があるのでそれを聴いてみてください」「八重衣は青木鈴慕先生と山口五郎先生の音源があるので聴き比べるのも面白いですよ」などと助言しても、聴くことをおろそかにして譜から入ってしまわれる人が少なくない。
 過去にも書いたことがあるが、横山先生は「まず聴くことが大事なんです。何度も何度も聴いて、こう吹きたいと思うものが出来てから尺八を持ちなさい」と口を酸っぱくしておっしゃられていた。まがりなりにもこの教えをおよそ実践してきた私はハゲしく同意する。第一、感動の源泉であり、“この曲をぜひ吹いてみたい”というモチベーションの高まりは、名演を聴くことからしか始まらないと思う。このことは改めて強調していきたいと考える。

 
 師がいるかいないかは畢竟自分の心がけ次第であった。最終的には、自分自身が自分にとっての最も厳しい師とならなければならないのである。
「気持があればいくつになっても向上することは可能である」と自身に言い聞かせ、この道を進んでいきたい。

 

2 Responses to 随筆石と竹 「しがいない」

  1. 田村 on 2015年5月2日更新 at 5:50 PM

    含蓄のある内容で興味深く読ませていただきました。向上心だけは忘れないよう頑張ろうと思います。

    • admin on 2015年5月3日更新 at 1:04 AM

      田村様
      いつもコメントありがとうございます。私も引き続きがんばって参りたく存じます。
      東京石の会演奏会が、本年12月20日に両国で行なわれることが決まりました。
      またご案内を差し上げますので、ご都合がつきましたらぜひご参加ください。
      石川

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