随筆石と竹「30年」

 

私が吹料〔ふきりょう~愛用管〕としている一尺八寸管は、恩師である横山勝也作(後年、下作りは三浦龍畝師であることが判明した)で、平成元年に私のところへやってきた。銘を”プレリュード”という(この由来は既述)。以来、朝に愛で、夕に闘い、なだめたりすかしたり、また問いかけたりして共に過ごしてきた。これまでに舞台や録音などで随分働いてもらった相棒である。ところが、他の音はそれなりに出すことが叶ったのであるが、乙のロ(指孔を全部塞いで出す一番低い音)だけは確信を持って出すことが出来ず、”あゝ、私はこの尺八を遂に吹きこなすことが叶わぬまま尺八人生を終えてしまうのか”という諦らめにも似た気持ちを抱いていた。

昨年末に通常のレッスンを終え、1月に10回目となる三ツ星会を控えていたことから、しばらくは長管を手にすること無くプレリュード一本を吹く毎日が続いた。すると時折、曲の中でこれまで出したことのない乙のロが発せられるようになった。最初は”あれっ、この音”というような感覚であった。それが、吹き重ねるうちにその感覚が少しづつ実感として持てるようになってきた。

三ツ星会の本番が何とか大きな破綻なく終了し、それから数日の間は曲を吹かず、ひたすら乙のロに取り組んだ。すると1月の終わり頃から”ああこの音や”と確信を感じる音が出だした。

私は小躍りしたいような衝動を抑え、その感覚を忘れないように毎日吹いた。同じく勝也銘で、こちらも長年吹きあぐねていた長管も、一尺八寸管と同じポイントに息を当てると同質の響きが得られるようになった。

それは私にとって本当に目出度く、30年間のつかえがいっぺんに取れたような感慨であった。が、良い話ばかりではない。その吹き方(鳴らし方)で乙のロを吹くと良くて4秒しか続かず、長管に至っては2秒続けば良い方である。一息2秒では曲を吹く以前の問題である。

これからが本当の勝負である。コンマ1秒ずつ伸ばしていく努力を重ね、何とか本番に使えるものにしなければならない。

しかし、私は何と鈍くさいのだろう。勘のいい人なら一発で捉えることの出来る乙のロのスイートスポットを探り当てるのに30年もかかってしまった。そしてまだいつでも出せるようにはなっていない。しかしこれもまた必然である。生きている間にその音に出会えたことに感謝し、もうひとあがきしたい。

 

 

2 Responses to 随筆石と竹「30年」

  1. 上津原鈴々 on 2018年3月29日更新 at 12:46 PM

    私も同様に音について色々と工夫を致します。
    息の当たるポイントは大切なポイントの一つですね。
    中継ぎをねじって息の当たるポイントを変えたり、顎の接触位置を左右に移動させたり、管尻が右寄りになるのを腕ごと真正面に構え直したりしてみます。
    とりわけ効果があったのは中継ぎのすき間をティッシュで埋めることで、音色に雑味が少なくなることです。
    それ以外に呼吸法もありますし、自分の身体を共鳴体にすること、尺八を吹かないこと、吹奏中の意識の在りかなど改善の余地が一杯でなかなか身体に憶えさせることが難しいことばかりです。
    古賀将之先生によれば全ての理想的な吹奏方が横山先生にあるそうで、これまでの米国での45年間は横山先生の研究だったそうです。

    • admin on 2018年3月31日更新 at 9:18 AM

      上津原鈴々様
      このたびは示唆に富んだメッセージをありがとうございました。
      古賀将之師は私が関心を寄せる尺八家のお一人ですが、横山先生との関わりは存じませんでした。
      機会が合えば実際にその音を聴かせていただきたいと考えております。
      公演、ワークショップ等のご案内を頂戴出来ればありがたく存じます。
      よろしくお願い申し上げます。
      石川利光拝

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