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◆差音(2005-4-7)
>「差音」というものがあることを聞きましたがどのようなものですか。
私は「差音(Difference Tones)」という用語を、ウィル・オッフェルマンズというフルーティストが書いた『現代フルート奏者のために(ゼンオン発行 1993年)』で知りました。
この本の解説では「2つの音が同時に鳴っている時、その音同士の衝突により3つ目の音が生じます。これを差音といいます。(P.43)」と書かれています。また、その項のエチュードには、“この音とこの音を同時に出すとこの音(第3の音)が聞こえる”と楽譜上に明示されています。
調べてみると、この「差音」は「結合音」という呼び方で、18世紀にタルティーニというヴァイオリニスト・作曲家がその重要性を説いたことがわかりました(「結合音」は「差音」と「加音」の総称ですが、「加音」は音楽的にはあまり重要な意味を持たず、一般的に「結合音」=「差音」として用いられているようです)。
『弦楽器のイントネーション(クリスティーネ・ヘマン著 シンフォニア発行 1980年)』という本には、「協和音程が純正に弾かれた場合には、耳障りな〈唸り〉が消えるばかりでなく、音を美しくするもう一つの要素、いわゆる‘結合音’が加わります。(P.15)」という表現で説明されています。また、ヴァイオリンなどの弦楽器では同時に二音の音を出す“重音奏法”において、この「差音(結合音)」が聞こえるように音程をとり、耳を訓練していくことが重要だと書かれています。この『弦楽器のイントネーション』にはさらに詳しい内容が記載されていますので、興味を持たれましたらぜひご一読下さい。
尺八の場合(というよりも私の場合ですが)は、自分の音を出すことにかなりの意識やエネルギーが費やされますので、なかなか他の音を聴くことが難しいですが、耳は鍛えるほどに良くなることは確かです。尺八で重奏をされる機会には、自身の音をしっかり出しながら相手の音もよく聴く、という意識を常に持ち臨まれることをおすすめします。
◆身体をゆるめる(2004-12-21)
>石川さんが「呼吸法」を習っていた、とお聞きしました。
>それは現在尺八を吹かれている時にどのように役立っているのでしょうか。
私が習っていたのは「西野流呼吸法」というメソッドで、西野バレエ団の創始者西野皓三先生が開発されたものです。詳しくは西野流のホームページや西野先生の著書を参照ください。
この呼吸法のレッスンは身体をゆるめることと‘気’を交流することからなります。レッスンを重ね、身体がゆるんでくると‘気’の存在に気づくようになり、指導員の出す清澄で強い‘気’と交流すると身体の細胞が悦ぶのがはっきりとわかります。とても優れたメソッドだと思います。
それと5〜6年前から独習しているのが近年マスコミに絶賛されている高岡英夫氏の「ゆる体操」です。これは高岡氏の研究から編み出されたものの中のほんの一部分ですが、器具などを使わずに誰にでも出来る、こちらも優れたメソッドです。
私が経験したこの二つのメソッドはどちらも“身体をゆるめる”ことを第一の目標にしています。
健康になる、また、身体のコリを取り細胞、臓器の動きを活性化させるにはとにかくゆるめることでよいのですが、尺八をうまく吹くためには“唇の回り他、必要な部分にだけ最適な力を入れて、あとは可能な限り脱力する”身体を作りたいのです。このバランスがとても難しいと私自身実感しています。そして、これはたくさん吹いて体得する以外には道はないと思います。この尺八を吹くための「理想的な身体の状態」が私なりに見つけられたことが呼吸法を習って最も役に立っている点です。
私は前出の西野先生、高岡氏の著書、および『アレクサンダー・テクニーク』に関する書物などを参考にしています。インターネットでかなり調べることが出来ると思いますので研究なさってください。
◆唇の形(2004-10-8)
Q1-1
> 小生は尺八を始めて20年以上になり、
> この間さまざまな師に教えを受けました。
> 始めたばかりのころに、きちんとした口作り、
> 息の吹き込みを学んで来なかった為か、
> 上手な方々の口元を観て、自分のそれとは違っていることに気づきました。
> 私は唇をとがらすような、
> 息の出口は唇の少し内側の奥でしているような気がします。
> そのせいか吹いていて、音を探って、口の周辺の筋肉が頻繁に動いていたり、
> 竹まで揺れてきたりして、安定 した音が出ないことがよくあります。
> 普通、上唇はやや横に引かれ、
> どんな音を出すときも口周りは一定しているように見かけております。
> 自分の吹き方は、大きく間違ってしまっているのでしょうか?
> 初めから出直す必要があるのでしょうか?
私も尺八を手にして25年になりますが、初めの頃に徹底した吹き込みをしなかったために今なお苦労しています。
音が出ているならば「吹き方が大きく間違ってしまっている」ことはないと思います。今の状態から少しずつ変えていけばよいと考えます。あまり大胆に変えてしまうと、思うように音が出ずにストレスがたまってしまったり、結局は元の吹き方に戻ってしまったりしやすいです。
文中にある“息の出口は唇の少し内側の奥でしている”は、なめらかな音を出すためには良い状態です。唇がとがり過ぎていると息流の出口が唇の先にかかってしまい、ガサガサした音になってしまいやすいですのでこの部分を改善するとよいでしょう。
唇の圧力のポイントはそのままにして、唇の先がめくれるようなイメージを持って単音を丁寧に磨いて下さい。
このコーナーの他の項にあるように、音を変える練習をするときには出しやすいリ(都山式乙のハ)からだんだんと降りていき乙のロまですべて冴えた音が出てから乙ロの吹き込みを増やすとよいでしょう。リ(乙ハ)、チはまだ出しやすいですがレは安定した音になりにくいので、そこでじっくり時間をかけてください。乙のレが冴えた音になれば乙ロも決まりやすいです。
端から見れば非常に安定した吹き方をしている人でも、やはりその安定を得るために常にたたかっていることは間違いありません。貴方だけが安定しないのでは決してないのです。
じっくり、丁寧に取り組めば必ず理想の音に近づいていくことでしょう。がんばって下さい。
Q1-2
> 日によって、思うように音が出せなかったり、
> 難しいものですね。口の癖は人さまざまですから、
> これでなくてはならないという形は無いのですね。
> 上手な人の口の形を真似しようとすると、
> 音が変になります。かえって音が出づらいのです。
> お教えのように、明らかに直すべき所を すこしづつ矯正していくほか
> 仕方ないのですね。
> 甲リからイに、ハやハの三など高音で竹が震えてしまうのは
> 本当にやっかいです。
大甲の音で竹が震えてしまうのはその音を出そうとするときに身体に力が入りすぎることが原因ではないでしょうか。
上下の唇の圧力を増して、唇主導で大甲の音が出せると余分な力が入りすぎず、震えるのが減るのではないかと考えます。
一息のなかで乙から甲へ、主に唇の圧力を使って出す練習を試されてはいかがでしょうか。
乙ロ→甲ロ、乙ツ→甲ツ、乙レ→甲レ、乙チ→甲チ、リ(乙ハ)→ヒ(甲ハ)、甲ロ→ハの五(ピ)
と徐々に音を高くして、まずハの五(ピ)が安定する唇を作ってみてください。大きな音を出す必要はありません。リラックスした状態で唇の真ん中に圧力をかけて息流の出口を薄くすると出やすくなります。
ヒ(甲ハ)とイ(甲ヒ)はほぼ同じ唇で出ますから、イ(甲ヒ)がうまく出ないときはヒ(甲ハ)の圧力も少し足りないかもしれません。ヒ(甲ハ)のときから少し圧力を高めにして吹く習慣をつけられるとよいのではないでしょうか。
◆尺八の音色(2004-9-4)
Q1-1
> 今日は尺八の音色についてお伺いしたいと思います。
> かつて、同じ尺八を使っても吹く人の力量で違った音色に聞こえる
> ということを体験致しました。
> 自分でも美しい音色を出せるように心掛けているのですが、変化がありません。
> 以前先輩からは、自分の吹きたい音をイメージしながら吹けば良い
> と言われたのですが、うまくいきません。
> 尺八の音色を決める要因は何なのでしょうか?
> また、綺麗な音色で吹くにはどうすれば良いのでしょうか?
なかなかうまくお答えできないと思いますが、私なりの考えを述べます。
> かつて、同じ尺八を使っても吹く人の力量で違った音色に聞こえるということを体験致しました。
これは、尺八が、吹く人の「身体」を楽器として使うウエイトが大きいために同じ楽器でも人により違った音色が生じると考えます。「力量」と一口にいっても‘肺活量’や‘息を出す強さ’などの初めからその人に備わっているものと、‘唇部分におけるノズルの作り方’や‘脱力のしかた’などテクニカルなものなど様々な要素があります。それが組み合わさってその人の「音」を形成していますので、誰一人として同じ音はありません。
この点においては人の声、歌とかなり共通点がありますが、声などは天分が大きなウエイトを占めるのに比べ、尺八はトレーニングの仕方によって、あたかも人間が変わったかのような劇的な音色、音量、表現の変化を獲得することができます。そこがまさに尺八の大きな魅力であり、醍醐味だと考えます。
> 尺八の音色を決める要因は何なのでしょうか?
抽象的な言い方になりますが、私の師横山勝也は“その人の尺八の音はその人の「境地」を表す”といいました。前述の身体の使い方はもちろんですが、“こういう音を出したい”“この人の様な音を出したい”というような具体的なイメージ、また、“自分は尺八によってこんなことを訴えたい”という感情や気迫などがミックスされてその人の音色が作られると考えます。
> 自分でも美しい音色を出せるように心掛けているのですが、変化がありません。
> また、綺麗な音色で吹くにはどうすれば良いのでしょうか?
この問いには文句なく「吹き込むこと」「竹を鳴らしきること」の練習をおすすめします。美しい音色、綺麗な音色の中でも、人の心に届く音は例外なく『強さ』を併せ持っています。まず強い音を出す練習をなさって下さい。自分がもうこれ以上鳴らせない、考えられる工夫はしつくした、という音は間違いなく美しさを湛えています。鳴らしきらない綺麗な音はか細い音にすぎません。
人と比べる必要はありません。自分が出来うる限りのことを尽くした音は必ずやその人の境地を表す美しい音色になっているはずです。
Q1-2
> ご返答頂いた内容に関する質問です。
> 結論と致しましては、自分の理想とする、
> つまり求める音色をイメージしながら吹けば良いということでしょうか?
> これは、頭の中で音色を思い浮かべながら吹くということでしょうか?
まさしく貴君が書かれている“自分の理想とする、つまり求める音色をイメージしながら吹けば良い”ということだろうと思います。
私が尺八を吹き始めた25年ぐらい前は、世紀の巨匠たち、すなわち尺八三本会の青木鈴慕師、山本邦山師、横山勝也師や、山口五郎師、宮田耕八朗師、酒井竹保師が現役の時代でした。その巨匠達の生音は“この世にこんな音があるのか”“どうして竹筒からそんなに美しい音が出るんだ”と驚嘆を禁じ得ないほど素晴らしいものでした。私達はその巨匠達に憧れ、“あんな音を出してみたい”とイメージして練習しました。
現在三曲系でプロになっている人間はほとんど全員といって過言でないほど上記の人達の影響を受けていると思います。また特筆すべきはそれぞれが本当に個性的な音でありました。
その時代に比べると、今は強烈なる個性的な音やスタイルをもった尺八奏者が少なくなり、具体的な音のイメージを持つことが出来にくくなっているのかもしれません。
現在は尺八に関する多くのCDが発売されています。上記の巨匠達を含め様々な音源を探して聴いてください。また演奏会にも足を運び現代の名手の音を聴いてみてください。“こんな音を出してみたい”と思う音を見つけ、その音をイメージして練習を重ねることが早く上達する道だと私は考えます。
> また、「吹き込むこと」「竹を鳴らしきること」についてですが、
> 「吹き込むこと」とは、息の続く限り、限界まで吹くことと考えているのですが、
> 宜しいのでしょうか?
> それから、「竹を鳴らしきること」とは具体的にはどういうことなのでしょうか?
「吹き込むこと」と「竹を鳴らしきること」はほぼ同意なのですが、息の続く限り、というよりは、‘その尺八が持つ限界の音を出そう’という意味です。音を長く吹くトレーニングとは別に、息(密度、スピード、量、角度など)を工夫し、自分がこれまでに出したことのない音(音量、響き、ツヤなど)を出そうと試みてください。大変な困難を伴いますが、その中でいろいろなことが見つかることと思います。貴君の理想とする、綺麗な音、美しい音もそこにあると確信します。ぜひ頑張って目指す音を獲得してください。
◆師匠につくメリット(2004-7-31)
>地方に住んでいることもあり、師匠についたことがありません。
>情報はインターネットで得られますので、あまり不便を感じずに
>練習をしています。
>師匠につくメリットとはどのようなものでしょうか。
私自身の経験から考える“先生に習うメリット”には次のようなものがあります。
@(自分よりも)良い音の出し方、良い身体の使い方をしている姿を間近で見て、聴くことができる。
Aリアルタイムで自分の吹奏にダメ出しをしてもらえる。
Bレッスン日が決まっていると、まがりなりにも課題としている曲を最後まで吹く練習をする。
この他にも、先生との人間関係が築ける、同門の仲間が出来る、など有形無形の多くものがありますが、これは特に尺八でなければ出来ないことではありませんのであらためては書きません。
独習で成果を出されている方ももちろんたくさんおられますし、それで納得出来ている方に無理に師匠につくことを強要する気はまったくありません。
ただ、あなたが早く上達を望まれるなら御自分に合う師匠を探してたずねられることをおすすめします。ホームページやインターネット上の情報から師匠の雰囲気はだいたいわかりますし、多くの先生はレッスンの見学が出来たり、無料もしくは安価で体験レッスンを設けたりされています。
“こういう曲を吹いてみたい”“演奏会などには出なくていいので費用のかからないほうがいい”など、具体的なご希望、および県名・地域を教えて下されば、師匠探しにはいつでも協力させていただきますのでお問い合わせください。
◆いつも調子が悪い?(2004-7-31)
>練習の時には自分でもいい音が出て、うまく吹けるのに、
>舞台では思うような調子が出ません。
>アガルことはあまりないほうだと思います。
>どういうことに気をつければよいのでしょうか。
貴男とは面識があり、まだ若い人なので少々辛口のアドヴァイスになることをお許し下さい。
私の周りにも、お会いする度に“今日は調子が悪い”とおっしゃる方がおられます。“じゃあ、いったいいつ調子がいいんですか?”とお尋ねしたくなるくらいです。
こうおっしゃる方の多くは、ご自身の良い部分ばかりをつなぎあわせて、それが自分の実力だと思われています。これは幻想に過ぎません。
乱暴な書き方になりますが、私は「ウォーミングアップも練習も無しで一曲通して吹いた時の実力」が、その人の「舞台上の実力」だと考えております。
「舞台上の実力」をつけるためには、‘可能な限り舞台を想定して、一曲を通す練習を重ねる’のが最も有効だと考えます。
舞台が終わったら決して言い訳をせずに、うまくいかなかった個所を思い出して原因を探ってください。積み重ねが力になります。がんばってください。
◆ユリ(ヴィヴラート)(2004-7-1)
> 何人かの奏者の音源を聞いていて音の終わりのユリが強調して聞こえる事が多かったのですが、
> 改めてよく聞きなおしてみると音の終わりだけゆっているのではなく、
> 音全体を通じてゆっているのだが音が減衰する+息のスピードが下がることで
> ユリが前面に出るように聞こえている要素が強いのではないかと思い直しました。
> なお、実はずっと判らないままいるのですが、縦ユリと横ユリはどう使い分けるのでしょうか?
> (あるいは先生のHPのQ&Aには横ユリという言葉が出てこないので、
> 横ユリはそもそもあまり使わないのでしょうか?)
> あと(これも判らないまま放ってあるんですが)、
> 縦ユリにせよ横ユリにせよ変化させるのは出来るだけ音の強さのみにしたほうがいいのでしょうか?
> それともある程度ピッチが上下してもいいのでしょうか?
> 僕自身の吹き方はピッチが上下しすぎるから何かしらその点で改善の必要が
> あるのではと思ってはいるのですが、それがどの程度正しいのか、
> またどのようにしたらいいのか判らないで居ります。
流派によっては何種類ものユリがあって使い分けるとされていますが、私は「斜めまわしユリ」をマスターし、それが確実にコントロールされれば、殆どの場面に対応出来ると考えています。「斜めまわしユリ」の音はきれいなサインカーブのイメージです。サインカーブの真ん中の線が出したい音のピッチです。
「斜めまわしユリ」の練習方法として、首を‘サッポロビールのマーク’のように斜め楕円に動かします。まずまっすぐに吹いて、それから上下に音程が同じ幅で変わるように丁寧に首を動かします。まっすぐ伸ばした音から自然に心地よく合理的なヴィブラートがかかるように、音のイメージをしっかりと持って練習して下さい。イメージの見本は声(歌の名手)、および上質の弦楽器のヴィブラートです。声にかかるヴィブラートは大部分天性のものだと思いますが、尺八のユリは練習して獲得するものです。首の周期的な動きはそれだけを特化して練習しないと身に付かないと私は考えます。
基本的には、伸ばす長さの最初の半分はまっすぐ吹いて、後半にヴィブラートをかけると考えてよいでしょう。常に音が揺れている状態では音程が不明瞭に聞こえるのと、揺った音が普通になり、かえって効果が出にくいことも考えられます。
ユリをかけているつもりでも振幅が細かすぎてホールなどでは全く効果がなかったり、伸ばした音のあとで苦し紛れに首を揺り、不規則な振幅になってしまっている、いわば‘ユリもどき’の状態の方も少なくないように思えます。まずはゆっくりから大きな振幅で音をゆる練習をなさって下さい。音のしっぽに向かって振幅が小さくならないように意識することも大事です。
息のユリは原則的に使いませんが、現代曲の一部で使うこともあります。また、奏者によっては息のユリと首のユリをうまくミックスさせて味わいを出している人もいます。いずれにせよ、しっかりとした音のイメージを持ち、“こういうユリをかけたい”というところから始まると考えております。
> 当方サラリーマンをしており平日はほとんど練習する時間が取れません。
> 限られた時間のなかで練習するとき、たとえば10分間や30分間での練習方法をアドヴァイスして下さい。
私がおすすめする練習内容をご質問にある10分間と30分間について書きます。
(1) 10分→「全音の素吹きプラス全音のメロディ」
(2) 30分→「全音とメリ音の練習プラス簡単な練習曲」
(1)「全音の素吹きプラス全音のメロディ」
あなたの最も冴えた全音を出すことにポイントを絞るのが良いと考えます。冴えた音が出たからとすぐに指を動かすのではなく、一音一音丁寧に吹くことが肝要です。これだけで10分位はすぐに経ちますが、まだ時間に余裕がある場合は全音だけで出来たメロディを吹くのもよいでしょう。例をあげれば『鳴るほど・ザ・尺八 尺八入門(菅原久仁義著)』の全音の練習曲(「メリーさんの羊」から「北国の春」まで)などです。
(2)「全音とメリ音の練習プラス簡単な練習曲」
もうすこしまとまった時間が取れる場合は@の練習にメリの練習を加えるとよいでしょう。このコーナーに既出の「深く、キレのあるメリ音」などを参考にして下さい。メリ音を出す練習が一通り終わればメリの入ったやさしい曲に進みます。前出の『尺八入門』なら例えば「おぼろ月夜」や「川の流れのように」など、よく知っているメロディでテンポがあまり速くないものが有効です。この次の段階では私は「六段の調」の初段や「本調」を吹いています。
毎日違った曲を吹くことも楽しいですが、ある程度曲を決めておいて日々取り組むと、その日のコンディションや上達、変化の度合いが捉えやすいので、私はこちらをお奨めします。いずれにせよウォーミングアップ無しでいきなり曲を吹くことは、微妙な唇や身体の感覚が決まりにくくなるという理由からおすすめ出来ません。
まとまった時間を取ることが難しい方は、朝起きた時や昼の休憩時、車の中など、まず尺八を手にする機会(瞬間)を作ることから始められるのがよいでしょう。私自身の経験からも1日手にしないとすぐ2日、3日、1週間と間隔が空くことになり、だんだん遠ざかってしまうことにつながりかねません。練習しなければ、と自分にプレッシャーをかけずに、毎日ちょっと楽器に触る、という時間を持つところから続けてみて下さい。
> 現在「山越」(石川注:尺八本曲。『一管懸命』に収録、試聴はこちら。)に挑戦しているのですが、曲の初めと終りの吹き切りが難しいです。どのような練習をすれば迫力のある音で吹き切ることが出来るでしょうか。
私が「吹き切る」時は“息流がうわづらない”ことに注意しています。例えば「山越」の最初の部分、甲のツレーーで強く吹くと息流がうわづり、外にはずれようとします。ですから、吹き込んで(息を押し込んで)いく時に息流を徐々に管のなかへ入れるように意識しています。唇は甲のレから乙のレに向かうように緩める感じです。甲のロを吹き切る時も乙のロに向かって緩めながら押し込んでいきます。乙音の場合はさらに唇を緩めます。
吹き切る時は気迫の増している分、自然と息のスピードが速くなろうとしますので、その息のスピードと唇の緩め方のバランスがうまくとれれば迫力のある「吹き切り」ができるでしょう。自分が出したいと思う音を強烈にイメージして回数を重ね、試行錯誤しながら身につける、という姿勢が大事だと考えます。
◆楽器の持ち替え(2004-4-6)
> 普段はほとんど一尺八寸管を吹いており、一年に数回、一尺六寸管や二尺一寸管を吹く機会があります
。
> Q&Aコーナーにあった“歌口と自分の唇の関係を合わす”ことを意識してやっていますが、どうしても違和感がありしっくりいきません。
> それ以外に注意するポイントがあれば教えて下さい。
このコーナーを参考にしていただきありがとうございます。“持ち替え”はほんとうに難しいものです。“歌口と自分の唇の関係を合わす”ことが意識されているとして、さらに次の点をチェックしてください。
@アゴ当たりの高さ・・・吹き慣れている一尺八寸管とくらべて極端に高く、あるいは低くなってはいないか。
A舌面(吹き口の前面)の角度および深さ・・・吹き慣れている管とくらべて息流の当たる角度が変わりすぎていないか、また、歌口の一番深いところとの距離が変わりすぎていないか。
B楽器を真っ直ぐに立てた状態で、アゴ当たりの左右のぶれが無いか。
違和感があるのは自分の息流がうまく歌口を捉えていないことが大きな原因だと思われます。上記@およびAをチェックする方法は、棒状のもの(タバコや鉛筆など)を歌口とアゴ当たりに渡して、角度や歌口の深さ、アゴ当たりの形状などを比べます。楽器自体の径(太さ)も一本ずつ違いますから、例え作者が同じでも一本ずつ微妙に違ってきます。Bは意外と気がつかないですが、吹き口の左右の高さが違うと息流が真っ直ぐに入らない原因になります。
以上の点をチェックされ、リ(乙のハ)、チ、など比較的出しやすい音で吹き比べて同じフィーリングが得られるようになってから少しずつ他の音に移る方法がよいと思います。
> この前のリサイタルのように、曲ごとに持ち替える時はどうやって楽器を合わせているんですか。(門人からの質問)
楽器の長さが変わると身体の使い方も変わってきます。
イメージを捉えるのに参考にしていただきやすいのはゴルフです。ゴルフは状況に応じて、地面に置かれたボールを打つのにクラブを持ち替えて打ちます。クラブの長さに合わせて身体(スイング)を大きくしたりコンパクトにしたりします。
例えば尺八の一尺八寸管を5番アイアンと仮定すると、二尺一寸管は3番アイアン(5番より長い)やスプーン(短めのウッドクラブ)と置き換えることができます。5番アイアンより長いクラブを振り、同じ地面に置かれたボールを打つためには、より大きな体の使い方が必要になってくることはゴルフをしない方でもおわかりになっていただけると思います。
ボールの位置=乙のロと考えると、長い尺八で乙のロを吹くためには身体を大きく使い、管尻まで届く長い息を出すことが必要になってきます。また逆に一尺六寸、一尺四寸など短い管を吹く時は、身体の使い方を楽器に合わせてコンパクトにすると、より合理的な吹き方が出来ますが、こちらは長い管を吹く時のような困難さを伴いません。
私は楽器を持ち替えた時、ゴルフのアドレス(打つ前にクラブをボールの手前にセットして距離感をはかる)時のように、手孔を全部閉じ、「乙のロ」の音に必要な息の長さ・深さをイメージしてから曲の演奏に入ります。曲の始まりが「ロ」以外の、乙のロの大メリ、ツのメリ、あるいはツレーなどの場合でも同じです。
> 私は尺八を始めて2年くらいになりますが、吹いているうちによく尺八の内部に露
がたまって音が出にくくなってきます。
> その都度、露切りで拭っているのですが、お 師匠さんの尺八はあまりそういうことはありません。
> お師匠さんにお尋ねするのですが、よく分からないとのことです。
> 吹く前にお茶を 飲み過ぎないようにしたり、口がとがらないように気をつけているのですが、どうし
てでしょうか?
> また寒い時に竹が冷たい時に露がつくと言われますが、しばらく吹いて竹が暖まっ
てきても、同じように露がつきます。
> 露が付くと音が出にくくなって、思うように吹 けなくなるので、困っています。
> よい方法があれば教えて下さい。
管の内部に露がたくさんつく原因は“管の中に入る息の量が多い”ことが推測されます。
尺八が発音する原理として「内吹きと外吹き」の二通りがあることがわかっています
(Q&Aコーナーの『内吹きと外吹き』を参照下さい)。
そこで、まず貴方の吹き方がどちらかを判別してみて下さい。一人で判別する方法と
しては‘乙のレ’など、下の手を使わない運指で音を出し、その空いた手を‘口の前
’と‘管尻’のかざしてみてどちらに息が多く出ているかをチェックします。
正面にあまり息が出ない「内吹き」になっているならば、露の量はあまり気になさら
ずに吹き込みを強化すればよいと思います。息の力が強くなれば吹きにくくなること
はなくなってくるでしょう。
正面からも息が出ている「外吹き」で、かつ、露が多いならば、効率があまり良くな
い吹き方になっていることが予想されますので、その場合はさらに息が外に多く出る
ように息流の角度を変える練習をなさって下さい。私がそのイメージをお伝えする
時は“息を前へ飛ばす”という表現をしています。別の表現として、私の先輩は“息
ビームの下端で歌口を削る感じ”と言われています。
また、唇の形として下唇が引 っ込みすぎていないことも外に吹くための重要なポイントです。「外吹き」がきれい
に 出来てくれば自然と露は減ってくると考えられます。
ご質問中の、口がとがらないように気をつける必要はありますが、お茶を節制する必
要はありません。ご安心下さい。
>長く吹いていると唇がふるえて音が切れ切れになります。
>どのような練習をすれば治るでしょうか。
唇がふるえる症状は“力み(りきみ)”からくるものと思われます。また、音が切れ切れになるのは唇における圧力のかかるポイントが外すぎることが原因でしょう。この現象は息を吸って吹き始める時に、毎回唇が開いた状態から息流を作る方に多く見られるようです。
これを改善するためには、息流の出口の“圧力のかかるポイント”を少し内側にする必要があります。まず、唇を閉じ、その唇の間から漏れた息流で音を作る練習をすると良いでしょう。唇の先端より少し内側の滑らかな部分に圧力がかかるようになると、ノイズの少ない冴えた音になり、また、唇がふるえることもなくなっていくと考えられます。
この練習をする際には、出しやすいリ(乙のハ)などからゆっくり丁寧に行なうことが肝要です。単音の音質が変わってきたら“チューリップ”や“メリーさんの羊”など、乙の全音が中心の易しい曲を、すべてなめらかな音で吹けるまで何度も反復練習なさって下さい。現在のその吹き方になるのにも一定の時間がかかっていますので、それを変えるためにはやはりある程度の時間が必要です。「自分の音を変えるんだ」という強い意志を持ち、あせらずじっくりと取り組んでください。
この項につき、Q&Aコーナー用に補足いたします。
これまでの回答にも、私なりの身体の使い方や意識の持ち方について書いておりますが、良い音を出すためにはまず、“いかに安定した息流を作るか”に全精力を傾ける必要がある、と言って過言ではありません。良い形、良い方向および角度の息流がなければいくら身体を緩めたり、高い意識を持てども充実した音にはなり得ません。ヒントにしていただけるかどうかはわかりませんが、最近私が良い息流の形としてイメージしているのは板ガムです。唇の間から板ガムの形のような息流を出すイメージです。その息流が真っ直ぐに歌口の真ん中を捉えるて音を出し、そこから最適な距離と角度を探り、最も良い響きのところで安定するように吹き込む練習を重ねます。まるい音を出したいからといって息流の出口を丸くすることは、効率の悪い音を出す結果にしかならないように思います。また、薄い息流を作る時に唇を横から引っ張りすぎると、大メリなどが出しにくい、ある意味で不自由な状態になってしまいますので、唇の筋肉は常にやわらかく、イメージする形がいつでも出来るように鍛えるのが良いと考えます。
◆練習用尺八の選定(2003-11-24)
>最近尺八を始めました。現在は知人に木の尺八を借りていますが、近いうちに自分の尺八を持ちたいと考えています。竹製は何十万円もするようですし、またどれだけ続くかもわかりませんので練習用のものを一本買おうと思っています。どういうものを買えばよいか石川さんのご意見をお聞かせ下さい。またお薦めの教則本も教えて下さい。
ご質問の文中にもあるように竹製の尺八は何十万円もするものもありますし、初心者の方には選べませんので、まず木製や樹脂製の尺八を持たれるのが良いでしょう。
私がお薦めするのは樹脂製の「悠」(8000円)です。初めての方には少し重く感じられるかもしれませんが、高性能で、品質のバラツキも無いようです。インターネットで買うことが出来るようです。木製尺八なら「虚竹(こちく)」か「虚龍(きょりゅう)」(18000円)が良いでしょう(といっても他はあまり知りません)。こちらはインターネットでも大きな和楽器店でも買うことが出来ると思います。店頭で購入される場合は吹ける人(理想は癖の少ない吹き方の上手な人)に選んでもらうのが賢明です。これらの尺八で練習を進め、「ずっと尺八を吹いていこう」という考えになられてから竹製の尺八の購入を検討されても遅くありません。
教則本でお薦めなのは、このコーナーの始めに書かれてある菅原久仁義さんの『鳴るほど・ザ・尺八 入門編』です。練習曲が多いので最初はこの本だけで飽きずに練習を進められることでしょう。身体の使い方が最も良く解説されているのは『現代尺八奏法講座』という3冊組のテキストです。こちらは通信講座(日本音楽教育センター)のテキストなので一般入手が可能かは私にはわかりません。尺八は独習が難しい楽器ですのでどなたかに習われることをおすすめしますが、その予定がないなら上記講座を調べられてもよいのではないでしょうか。〔この講座は終了している、との連絡を頂戴しました。〕また、尺八以外で私が参考にしているのは『音楽家ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』(誠信書房)や、ブレスヴォイストレーニングの福島英さん(著書多数)の本などです。
以上、参考にしていただければ幸いです。
>今年の第5回尺八新人王決定戦を聴きに行きました。
>そこで,ほっぺたを膨らませてとても上手に尺八を吹く方がいました。
>Y田氏(注・石川の門人)です。
>また、私の友人が、O浜氏(注・同じく門人)も膨らむと言っておりました。
>私は今アンブシュアの試行錯誤の毎日です。
>さっそく真似をしてみましたが,うまくいきませんでした。
> しかし,ほっぺたが膨らむことの中には,何か重要なポイントがあると確信しております。
>どのように考えればよいでしょうか。
>よろしかったらご教授くださいますようお願いいたします。
Y田君とO浜君は私の門人ですが、私など及びもつかないような能力を持っています。いろいろなところで活躍の場を拡げており、嬉しく思っております。
さて、私自身は通常“ほっぺたをふくらませて吹く”ということは意識しておりませんし、指導もしておりません。ただ、私が吹き方のアドヴァイスをする際に、@唇は固定しすぎずに常にやわらかく保つこと、Aメロディーを吹く際には‘息流のスピード感’の変化をつけることが大事である、B口腔内は可能な限り大きくし、口の中から喉にかけてを縦に広げるように吹く、と伝えています。
最初からほっぺたをふくらますつもりで尺八を吹こうとすると、息流の出口の角度が定まりにくくなるために、鳴るポイントがはずれてしまうのではないか、と思われます。先に鳴るポイントをとらえ、息流がその角度をはずれないようにしてさらに空気を送り込もう(吹き込む息の量を増やす)とすると、人によっては「ほっぺたがふくらむ」現象になるのではないでしょうか。
Y田君とO浜君は息流の変化をつける練習の過程でそういう吹き方が身についたのだと思います。参考にしていただければ幸いです。
> 先日、以前より欲しかった長管(2尺3寸)をやっと入手しました。
> 指も届き(2,4孔 は第2関節)、全音は無理なく吹けるのですが、
> 半音、特に第2関節で押さえている2孔(いわゆるレの半音)と4孔の全音メリ(いわゆるハの半音)
> の開き加減(というか、閉じ加減というか)が上手くいかず困っています。
> ずらしてみたり浮かしてみたり色々試してはいるのですが…。
> 先生も確か”第2関節派”だったかと思うのですが、どのように隙間を作るかについてアドバイスを頂きたいです。
ご質問に対し、私がアドヴァイスさせていただくとすれば次の2点です。
@指の開閉よりもまず、アゴめりで音程をコントロールする訓練をする。
A自分のなかにより確実な音程感覚を養う。
基本となる考え方は、指の隙間で音程を作るのではなく、‘自分の歌’として音程を持つということです。
一尺八寸管と比べると、長管は同じ隙間を形成していても、息の量、甲乙などで響きやピッチなどに差が出やすいです。ですので手孔の開け方に頼りすぎないほうが賢明です。自己の内部の音程感覚と、深いアゴめりをしっかり意識して音程を作り、手孔は「補助的」に「微調整用」として使うのがよいと考えます。
@の深いアゴめりの練習方法はこのコーナーの前項にあります。
Aの練習方法としては、‘レの半音’に主眼を置くなら『レから始まるドレミファソラシド』。‘ハの半音’に主眼を置くなら『レから始まる“さくらさくら”』などが有効でしょう。長管で音程が決まるようになれば、一尺八寸管、一尺六寸管など違う長さの楽器でも同様の練習をして、どの楽器でも同じ音程で吹ける(歌える)ように自身の音程感覚を養って下さい。なお、この項では詳しく書きませんが、“唱譜”、“自分の音を録音して聴くこと”も、‘自分の歌’として音程を捉えるためのとても重要な練習です。長管をうまく吹くことができるようになると、短管の音も豊かになります。頑張って下さい。
> 海童道祖や横山勝也師のような深く、かつ、キレのあるメリ音にあこがれています。
> あのようなメリ音に近づくためにはどのような練習をすればよいでしょうか。
“キレのあるメリ音”とは良い表現ですね。私も常々キレがあり、かつ深いメリ音を出したいと熱望しております。
私が自分の練習に取り入れ、またレッスンなどで試してもらっている方法を記しますので参考にして頂ければ幸いです。
まず、深いメリ音を出すための実験です。
普通に尺八を構えた状態で、リ(乙のハ)を吹きます。そして、その音を出しながら、アゴは引かずに、楽器を管尻から上げていって音程を下げます。床と平行になるように楽器を横にしていく感じです。息の当たるポイントや息のスピードをうまくコントロールすると、リのメリ、もしくはハの半音の音程になるまでメリで音を下げることが出来ます(3孔と4孔は開放のままです)。次に、その1音下がった“楽器と口元の関係”を保ったまま、尺八を普段構えている位置に戻します。そうすると、尺八についてきた口元、というか顔の部分は、首が伸び、床を覗き込むような形になっていませんか。その状態と、通常の吹奏の状態がうまく往復出来れば、アゴだけでの深い1音メリが出せることになります。メリ音は一般的に“アゴを引く”とされていますが、普通に引くよりも首が伸びるような形で、唇と歌口の距離が縮まると「メリしろ」が増え、より安定した音で音程を下げることが出来るように思います。出しやすいリ(乙のハ)で充分に慣らしてからチ、レ、ツ、ロ、と指を変えていくのが良いでしょう。難しい乙ロも丁寧に取り組めば、必ず深いメリ音が出るようになります。出したい音程と音をしっかりイメージすることも重要です。
次は、キレのあるメリ音を出すためのトレーニングです。
まず、前項の要領で乙のロを通常ポジションと大メリで充分に出し、アゴメリがよく効く状態にします。次にローッー(琴:ツのメリ、都:ツの半音)と吹きます。この時に大事なことは、〈@心の中でローッーとしっかり唱譜する 〉〈A指がロからッに移行する〉 〈Bアゴのポジションが通常からメリのポジションに移る〉この3つのタイミングをバシッと合わせることです。3つのポイントのタイミングが合えば、くっきりとしたメリ音が必ず出ます。唱譜が弱い、指の動きが不明瞭、アゴの動きが手と合っていない、などの時にはなかなか冴えたメリ音が出てくれないように感じます。最初はローッーをくり返し、良いタイミングでメリ音が出せるように練習して下さい。
およそ納得の行くメリ音が出るようになったら、メリの後の大事な‘カリ戻し’も併せて獲得するために次の音節を吹きます。ローッーロー、ローッーレー、レーウ(乙のチの半音)ーレー、レーウーリ(ハの全音)ー、チーリのメリ(ハの半音)ーチー、チーリのメリーロー。メリ音に移る時も大事ですが、メリ音からカリ音(通常ポジション)に移る時はさらにタイミング良く、カリ音に戻った瞬間に冴えた音が出るように意識して吹く必要があります。同様に甲でも行ない、甲チーヒのメリ(ハの半音)ーハの五(ピ)ーまで行ったら今度は降ります。ハの五(ピ)ーヒのメリ(ハの半音)ーチー、ヒ(ハの全音)ーチのメリ(チの半音)ーレー、レーッーロー、ローリのメリ(ハの半音)ーチー、リ(ハ)ーウーレー、レーッーロー、と乙ロまで戻ったらこのトレーニングは終わりです。音が変わる時に上記の3つのポイントをしっかり合わせる意識を持って吹いて下さい。
なお、文章だけではおわかりになりにくいこともあると思いますので、状況が許せば、レッスン場へ見学、あるいは月一回の錬成会へお越し下さい。
> レッスンで先生に楽器が曲がっていると指摘されました。
> 吹き始めはそうでもないのすが、吹いているうちに力んでしまって曲がってくるようです。
> 矯正する何かよい方法>はありませんか。
ねじれを直すためによく行なわれるのは、目印をつける方法です。尺八の管尻のまん中に色テープでマーキングしたり、マッチ棒の先などをつけて、ねじれたら視覚的にわかるようにします。力が入ってねじれる場合は、利き腕が引っ張るケースと、逆に利き腕が押してしまうケースがあります。又、楽器の構え自体が正常時よりも右や左にずれてしまう場合も時としてあります。まずは自分の傾向(どういう形、方向にねじれるか)を知ることが、矯正するための大事なポイントだと思います。
楽器を構えた時、少々のねじれを持っている人は少なくなく、ある程度の許容範囲があると思われますが、あまりにねじれていると、息のエネルギーが損なわれる、メリやカリなど特定の音が出にくくなる、などのデメリットが生じます。自身が吹いている姿は客観的に捉えにくいので、先生にも気がついたらその都度指摘していただくようお願いして、早めに対処なさることをおすすめします。
> 古典本曲をどうしても吹きたいと思い、憧れの師匠にようやく入門できましたが、
> なかなか師匠の演奏には近づかず悩んでいます。
> どういうことに注意して練習すると良いのでしょうか。
> 私には古典本曲は吹けないのだろうかと最近はメゲています。
熱心なご様子が文面からも伝わり嬉しく思います。
さて、師匠に習っておられるとのことですが、師匠との稽古の時、貴方は楽譜を見ながら稽古を受けていらっしゃいませんか。ほんとうに師匠の芸をとろうと思えば、師匠がどういう吹き方をされているかをじっくりと観察できる状態で臨まねばなりません。そのためには、稽古を受ける時にはおよそ暗譜しているくらい準備し、師匠の一挙手一投足をを逃さず自分の身体で受け止める気持ちが大切だと思います。特に古典本曲は、楽譜に書き表すことの出来ない(または敢えてしない)微妙な奏法や動きを用いて細かなニュアンスを表現することが多いです。私は古典本曲はある意味“手を聴く”ものだと思っております。まず師匠の手の使い方、息の使い方などをしっかりと見極めた上で、自分の身体を使って反復し、“手”を体得することが重要だと考えます。師匠が稽古の中でアドバイスをされても、それを頭の中で理解しているだけでは身体の中には入ってきません。自分自身で“気づき”、それを体現する取り組みが必要です。
貴方の熱意があれば大丈夫です。頑張ってください。
>アンブシュアというのは口の形のことなのでしょうか?
>尺八の場合、アンブシュアは意識的につくるものなのですか?
>上級者の方は唇が息でめくれ上がっていて、
>その周りの筋肉は締まっているように見えます。
>締め方ひとつで音程も変わるようにも思います。
アンブシュア(embouchure)は元々「〜の入り口」という意味のフランス語だそうです。音楽用語としてはご質問にあるとおり「管楽器の『口の形』」の意味で使われます。尺八に限らず、吹く楽器にはそれぞれに最適な口の形があり、訓練でその楽器に合った口の形を作る必要があります。
尺八は、‘閉じた唇からもれた息’で吹くイメージですので、他の種類に比べるとより自然に近い唇で演奏する管楽器ですが、やはり日々吹き込むことでその尺八に合った口の形、吹く人が欲する音を生み出す口の形が形成されます。
上級者の唇がめくれ上がっているのは、なめらかな音を出すためです。唇の最も先端で圧力をかけてしまうと、口先の荒い部分が触れてガサガサした音になりやすいです。ですから、軽く閉じた状態から息をもらしてやるイメージで吹きます。そうすると唇のなめらかな部分で吹くことができ、なめらかな音になります。また、周りの筋肉が締まっているように見えるのは、息のロスをなくし、出来るだけ効率よく吹くためです。
締め方ひとつで音程も変わります。唇を締め気味にし、息流のスピードを上げてやると音程は上がります。また、上下の唇の閉じ方を変えて、息流の角度を変えても音程がかなり変わります。唇の周りの感覚は非常にデリケートです。その感覚を磨き、また、尺八を吹くのに適した筋肉を形成、維持するためにも、少しの時間で構いませんから毎日吹く習慣をつけてください。
さらに詳しくお知りになりたい場合の参考書の一例です。
●「アンブシュアー」(モーリス・M・ポーター)全音楽譜出版社
●「すべての管楽器奏者へ〜ある歯科医の提言〜」(根本俊男)音楽之友社
>内吹きと外吹きというのを聞いたことがあります。
>どのような違いと特性があるのでしょうか?
>また内吹きから外吹きに変えることはできるのでしょうか?(その逆も)
>よろしくお願いします。
私はこの件に関してあまり詳しくはありませんので、原理的なことは、菅原久仁義さんが以前雑誌に書かれていたことを要約してお伝えします。『尺八奏者数十人(十数人だったかも)にテストをしたところ、乙ロを吹いた時に、息がほとんど外に出ているケースと、逆に、息がほとんど中に入るケースが確認された。テストは、吹いている時にライターの火を尺八上管の前方と管尻に近づけ、どちらで火が消えるか、というものであった。尺八の前で火が消えたほうを「外吹き」、管尻で火が消えたほうを「内吹き(もしくは中吹き)」と呼び、比率としては「外吹き」のほうが多かった。
尺八の教則本などでは、“息流を楽器の外と内に二分して”吹く、とよく記述されるが、実際は外、内のどちらかに偏りが大きいほど、音量が大きく、ノイズが少なくなることがパイプオルガンなどの開管楽器の研究で確認されている。そこで、まずは自分がどちらに偏っているかを知ることが上達への道である。
あと、@この「外吹きと内吹き」は乙音の時に違いが表れ、甲音はどちらも外吹きになる、A基本的に外(内)吹きの人でも特定の音や吹き方の時に内(外)吹きになったり、偏向率が変わったりすることがある、Bこれはメリ吹き、カリ吹きとは別の問題である。』
細かな部分は少し違うかもしれませんが、大意はこのようなものだったと思います。私のイメージでは、きれいな外吹きの乙ロ音は“空気柱がポーンと響いているような音”、内吹きの乙ロ音は“いろんな成分がつまっているような音”という感じです。例をあげると「外吹き」は横山勝也師の音、「内吹き」は青木鈴慕師の音です。
その人が「外吹き」になるか、「内吹き」になるか、ということは最初に音が出た時点でほぼ決まるのではないか、と私は考えています。
“内吹きから外吹きに変えることはできるか”というご質問ですが、これは私自身の経験をもとに書きます。
私はもともと内に入る息の量が多い、偏りの少ない吹き方をしており、音も冴えませんでした。私の尺八を作ってくださった師匠が外吹きでしたので、尺八の性能を発揮するためにもきれいな外吹きになることが必須条件だと考えました。そこで‘甲音はいずれも外吹きになること’に目をつけ、甲のレをしっかり吹いたまま乙のレに移る練習をしました。最初は乙レに移る時に息が管の中に入ろうとしますが、そこをこらえ、下唇でしっかり蓋をしたまま音が出るまで反復しました。息流を楽器の方向ではなく、正面に吹きつけるような感じです。時間が経つ内にだんだん外吹きの乙レが出るようになったので、それを最初から出せるようにし、乙ロに移りました。乙ロはより上下の唇を歌口に近づける意識が必要です。乙レー乙ロと二音が続けて出せるようになれば、ほぼ安定した外吹きが出来ていると考えてよいので、他の全音も出してみます。あとは時間をかけて吹き方と音を獲得します。自分の吹き方が変わってきているかをチェックするには、台に立てたろうそくを使うと良いでしょう。炎の上で乙ロを吹いても火が消えなければ、外吹きになっていると判断できます。逆の“外吹きから内吹きに変えること”については私にはわかりません。
一度貴方の吹き方をチェックされ、“より偏りをつける”という意識をもって取り組んでみてください。
> 小さい音、特に高音(都山でいう甲のチ、ハあたり)を音量を小さく、しかし強く、
> しかも優しい音色で吹くにはどうしたらよいでしょうか。
充実した小さい音を出すためには、充実した大きい音が出せることが前提条件になる
のではないか、と考えます。たっぷりした高音を出す訓練をして、そこから少しずつ
音量を下げていくと、お望みの音に近づいていくのではないでしょうか。まず、力強い甲のチを出す練習をしてみてください。乙のチを貴方の鳴らしきった状
態にして、そこから甲のチに移ります。以前のこのコーナーの「甲音の練習方法」に
あるように、“甲音(ここではチ)の出るポイント”を捉える意識を持って、息流の
角度と圧力をうまく整えると力強い甲のチが出ます。私の場合は、乙音から甲音に移
るときには上唇が前に出て、舌面に乗っかるような感じになります。うまく出るよう
になれば、次はその力強いチを最初から出せるように練習します。いたずらに強く吹
くのではなく、常にポイントを捉えるよう意識してください。
力強いチが出せたと仮定して、そこから音量を下げるためには、@息のスピードを少
し遅くする、A息流の幅を狭くする、などが考えられます。吹き手と楽器の関係(バ
ランス)でその方法は違ってくると思いますが、この時も“ポイントを捉える意識”
を持ちつづけることが安定した音を出す条件になるような気がします。ここから先は
ご自身で研究なさって下さい。甲のハも同じ方法で良いと思います。
また、“優しい音色”を出すためには、そういうイメージを強く持つことが最も大切
だと考えます。歌詞や情景をよく知っている曲やメロディ(あまり難しくないものが
良い)をたくさん吹いて、自身のイメージが音に反映するように練習して下さい。
尺八はイメージ次第で音色がどんどん変わる面白い楽器です。頑張ってください。
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