久々に分厚い文芸書(東京プリズン)

今年大きな話題となった本です。

東京プリズン/河出書房新社

¥1,890

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”東京プリズン”とは、敗戦後アメリカから日本の指導者達が裁かれた東京裁判のことです。

皆さんは、もしアメリカ人の友人から「原爆は戦争を終わらすために必要だった。」とか、「日本の侵略戦争こそが非難されるべきことだ」などと言われた場合、どのように反論しますか。また、「日本人は神を信じていなくてけしからん」と言われた場合、どのように説明しますか。

この小説は、”天皇の戦争責任とは?””日本にとって敗戦とは?”という重いテーマを扱った意欲的な作品です。

主人公は16歳でアメリカの高校に留学している少女です。彼女が終盤では、アメリカ人を相手に、天皇の戦争責任についてのディベートに立たされることになり、たった一人で日本人の威信をかけて戦います。

かつて私の妹が主人公と同じようにアメリカの高校に一人で行き、心配していたことがあるので、主人公に強いシンパシーを憶えながら読みました。

また、私が子どもの頃暮らしたことのあるニューイングランド地方の景色の描写や、雪に閉ざされる冬などが、読んでいて記憶に甦ってきました。

とても冴えていると思う台詞がちりばめられています。また、アメリカの高校の描写などのディティールについても丁寧に描かれており、作者が深く取材し、思索されて書かれているのがわかります。

そして、「A級戦犯とは?」等の問いに正しく答えられない、私を含めて知らなさすぎる日本人は、主人公と共に、その意味を学び、そして主人公と共に自分の無知を恥じることになります。

色々な角度から思い切った表現で歴史を検証し、しかもエモーショナルに訴えかけてくるのは、小説ならではだと思いました。

帯に作者の赤坂真理さんからのコメントがあります。

引用させていただきます。

「《戦争と戦後》のことを書きたい、すべての日本人の問題として書きたい(中略)ある民族や国家が、あれだけの喪失をたったの60年や70年で忘れてしまうことは、本当はありえない。それでも忘れたようにふるまえたのは、なぜだったのか、そしてそのことは、日本と日本人に何をもたらしたのか?それらに迫るには、《小説》しかありえなかった。すべての同胞のために、私は書いた。」

ぜひご一読を。