チャイコンの真相は「アウアー自伝」で!

以前にご紹介した本「ヴァイオリン・マスタリー」の翻訳者の角英憲先生が最近出版された本がこれです。544ページにも及ぶ、重厚な本です。

パラパラ見て、まず写真がすごいです!!ブラームスとヨハン・シュトラウス2世の奥さんの写真とか、クララ・シューマンとヨアヒムの合奏する絵とか、見たこともない貴重な写真がたくさん載っています!!

アウアーといえば、拙訳書「ハヴァシュバイオリン奏法」(p.57)でも真っ先に言及されていたヴァイオリン名教師。ハンガリー出身なところやアメリカに渡ったというところもカトー・ハヴァシュ先生と共通しています。

「安定した音程を得るには、集中の力しかない。集中を持続させることの重要性を初めて説いたのはアウアーであろう。著書『ヴァイオリン奏法』で、『最も重要な問題はこれまでほとんど看過されてきた。この問題とは、メンタルなものである。メンタルな働き、例えば指の動きをコントロールする脳の働きが重要視されることは、これまで全くなかった。しかも、むずかしいメンタルな作業や長時間におよぶ精神の集中ができなければ、バイオリンのような難しい楽器を習得しようとしても時間の浪費である。』」

(カトー・ハヴァシュ著、石川ちすみ訳、「ハヴァシュ・バイオリン奏法」、ヤマハミュージックメディア刊より)

アウアーの生きた時代は戦争が勃発し、宮廷を中心とした古い時代が終わるなど、音楽家の生活にも多大な影響のあった激動の時代。そして、ブラームスが生きていて、ハイフェッツやエルマンが神童でという、新旧音楽家の交差点のような時代です。

アウアーが一人称で語るあらゆるお話がとても興味深く、貴重なエピソードが満載のこの本は、読み終わるのがもったいないくらいでした。

ここでエピソードの一つでもご紹介しようかと思いましたが、読み進めるうちに付箋だらけになり、一つ二つ選ぶのは不可能でした。

ワイドショー風タイトルで、ヒントだけ並べておきます。

◎チャイコフスキーのコンチェルトを「演奏不可能」と突き返したエピソードの真相に迫れ!本人独占告白!!

〜「チャイコフスキーの”アウアー版”って何なの?」の疑問もこれでスッキリ氷解!

◎冷酷なヴュータン婦人の仕打ちとは!!神童アウアーをショックのあまり失神させた波乱のオーディション。

◎青春の日々、ウィニアウスキーらと企てた、荒唐無稽な音楽家引退計画とは?!

◎親友ウィニアフスキーの悲しい死。

◎そこが知りたい!戦争中の音楽家ってどうなるの?!

◎幼きハイフェッツとエルマン、神童ペアの定番曲とは?

◎授業に出たら顔に硫酸をかける?!過激学生運動家だった若きジンバリスト!

◎サラサーテの生音は、まるで・・・

◎宮廷音楽家のお仕事とは?その縛りと栄光。

◎急遽サラサーテ&ウィニアウスキーの夢の協演実現!大公、楽器を持っていなかったウィニアフスキーへの滅茶ブリ!その驚愕の解決法とは?!

◎17歳のグラズノフ、師リムスキー=コルサコフに伴われて緊張のリハーサル!

◎アメリカに渡った音楽家たち、その経緯とは?

◎アメリカの音楽業界にアウアー物申す!

続きは本をお読みくださいね。

個人的に、自分の知識が少ないことも痛感し、恥じ入りました。

せっかく語られていても知らない名前も多かったからです。

幸い巻末に詳しい索引もあるので、これからこの本をレファレンスとしても活用していきたいです。

編集部が作られたという年表の分厚さ、詳しさも半端なく、学術的な価値もすごそうです。