随筆石と竹「メインエベント」

 

私にとっての2014年後半のメインエベントは11月と12月に一つづつあった。メインエベントが二つというのもおかしな話であるが、どちらも大事な催しだったので両方報告させていただくことにする。

 

11月27日、今年のリサイタルは兄・石川憲弘とのジョイントの形をとった。一昨年に引き続き二度目のジョイントリサイタルである。

プログラムは本年2月に急逝された山本邦山師追福の「壱越」(山本邦山作曲)から始まり、私が2004年に委嘱した尺八独奏曲「飛天」(川崎絵都夫作曲)、改訂版の初演となる「陽炎(ようえん)」(神坂真理子作曲)、ちょいと休憩のあとは爽やかな佳作「風によせる三つの前奏曲」(長澤勝俊作曲)、そして二十絃箏の独奏曲「竜田の曲」(三木 稔作曲)と続き、ラストは今回のために委嘱した「いしのいし」(前田さと子作曲)、の全6曲で一人5曲ずつ。今回の目玉は何と言っても委嘱新作「いしのいし」である。数年前、前田さと子さんの作品発表会を拝聴した折に、前田さんから“私の夢はお二人(憲弘・利光)の曲を書くことです”と、言ってくださったのをずっと心に留めていて、今回がそのタイミングだと思い“えいやっ”とお願いした。

7月にお願いした曲の最終稿が届いたのは本番の10日ほど前だった。作曲家によっては打ち込み音源を添えてイメージを伝えてくださる人もいらっしゃるが、今作にはそれは無く、いただいた楽譜をもとに一から音を生み出す作業となる。この作業、この瞬間が例えようのないほど楽しい。まずいただいた楽譜から調性と音域を確認し、使う楽器を選定する。今作は一尺六寸管と二尺三寸管(A管)の持ち替えで臨むことに決め、運指をふっていく。数カ所ややこしい手はあるが何とかなりそうである。メロディを繰り返し形にしながらイメージをふくらませていくと、尺八で歌うことの出来る好いメロディで楽しみが増してゆく。箏(今作は十七絃箏)がどのように絡んでくるかは、浅学の私には楽譜を読んだだけでは朧げにしかわからないので、まず自分のパートを可能な限り固めていくことにする。

初の合わせは本番3日前であった。そろそろと合わせていくと、尺八のゆったりとしたメロディと十七絃のからみが何とも心地よい。宮城道雄先生が「谷間の水車」という曲の楽譜に付記されておられた“うまく演奏すれば良い曲です”という一文を思い出し、この曲もまさにそうだ、と思いながら嬉しくなる。次の合わせは本番前日。ありがたいことに作曲者前田さんとスケジュールが合い、声楽家の娘さんと共に立ち会ってくださった。まず一度試奏し、たくさんのアドヴァイスやヒントを頂戴する。作曲者の前田さんも、相当に強い思い入れを込めてこの作品を作ってくださったことがわかり、感謝感激雨霰であった。

一夜明けていよいよ本番の日を迎えた。
自分の主催する演奏会というのは、演奏以外の事務作業(雑用)の多さが半端ではない。当日の昼まで入る予約のチケットを手配したり、配布プログラムおよび宣伝チラシの準備、受付周りの用意からスタッフの謝金封筒作り、はたまた当日のお弁当、打ち上げのプランetc、膨大な量の雑用が待ち受けている。本当に大変であるが、こういう苦労もすべてひっくるめて本番の音になりお客様に届き、また、自分を成長させてくれるのだと私は考えている。

おかげを持ち、リサイタルは熱いお客様に支えられ目出度く終了した。今回は会場に審査員がいらっしゃることもなかったので、石川ブロスのライブよろしく二人で曲間にMCをしながら進行する形をとった。手前味噌であるが、これが緊張と緩和のリズムを生み出し、また客席との距離が縮まり、演奏する側も楽しみながら進めることが出来た。初演となった「いしのいし」は自分で言うのも何であるが、現在の我々をほぼ出せたよい出来だったと思う。これまでの箏と尺八の二重奏曲には無い、ちょっと不思議な趣きの作品で、この曲に出会えたことがありがたい。遠くない将来に再演の機会を持ちたいと願う。お客様、作曲者、スタッフほか、関わってくださったすべての人に感謝したい。

 

その10日後の12月7日には、京都府民ホール・アルティに於いて「NHK邦楽技能者育成会同窓会第3回演奏会“現代邦楽『考』”」(長い!)が開催された。

東京、横浜に続き関西初となる第3回演奏会は、私が言い出しっぺとなったこともあり、実行委員長を務めさせていただいた。こちらは第1回、第2回の構成イメージはあるものの内容、進行等については、ほぼ一から作り上げる作業だったので結構たいへんであった。同じく“関西でも演奏会をやりましょう”と声を上げてくださっていた大先輩の福森文子先生に代表となっていただき、私が“この人”とお声掛けした4名と私の計6名で開催検討会を行なったのが2012年の6月。それから2~3ヶ月おきにミーティングを行い、開催1年前の同年12月に会場候補の一つ、京都・アルティが運良く取れた(福原さんが4倍の倍率の中を勝ち取った)ことで一気に現実味を帯びて来た。それからさらに3名の人に協力をお願いし、先の6名と合わせ9名で実行委員会を立ち上げた。

ここからは時間との戦いであった。岡田さんに運営の予算案を出してもらい、同窓会の理事会および総会に関西での開催を諮った。当初は参加者獲得目標50名で60万円の赤字見込みとなっていたため、総会では開催に対し結構厳しい声を多くいただいた。しかし、理事の中には推してくださる方もおられ、“開催するのは有意義なことだから皆で協力して、チケットも売って何とか成功させましょう”と言ってくださった。本当に嬉しくありがたかった。

演奏会開催と出演の呼びかけ、楽譜の調達、配布などの事務作業は他の人にお願いするとどこまで頼んだかわからなくなる恐れがあり、途中まで殆ど一人で行なったので、これがもの凄い手間であった。基本的に1枚5円のコピー屋さんでコピーした代金が2万6千円ほど、基本的に82円のメール便で行なった通信費が5万2千円ほどになった。また、先の自分のリサイタルとタイミングが重なり、ある時期は朦朧としながら連日何十通の通信物を発送し続けていた。

選曲は実行委員で曲や構成プランを出し合って検討を重ね、最終決定は私がさせていただいた。1・大合奏「無意味な序曲(藤井凡大作曲)」、2・尺八五重奏「行雲(牧野由多可作曲)」、3・箏三重奏「朗(杵屋正邦作曲)、4・古曲「越後獅子(峰崎勾当作曲)、5・大合奏「宴の響(山本邦山作曲)~山本邦山師追福」の5曲のプログラムとなった。古曲以外はすべてNHK邦楽技能者育成会(以下、育成会)の講師を歴任された方の曲となり、育成会のカラーを出すことが出来た。尺八五重奏と箏三重奏の2曲は独断で関西で活躍する若手を中心にメンバー構成した。また、前の2回はオール現代作品であったが、“古典曲も入れた方が参加者が増えるのでは”という実行委員の意見から、古曲「越後獅子」を取り上げた。この2点も結果的に成功だったように思う。

最も心配していたのは出演者確保であったが、何と最終的には62名になった。関西の他に、関東から18名、東海地区から5名、中国地区から1名の申し込みがあり、ありがたかった。収支的にはまだ不安を残すものの規模としては恰好がついた。

練習は9月下旬に1回、そして秋の演奏会シーズンを外した11月下旬に1回、そして本番の前々日、前日に行なった。1回目は楽譜の整理と曲調や指揮者の意向を確認するような作業で終わり、本番1週間前の第2回目の練習から本格化した。指揮者も育成会の卒業生で元講師の人物でいらしたので、あたかも育成会の合奏の授業が再現されているようで面白かった。

本番が近づくにつれ皆の顔が引き締まって来て、これも受講生が卒業演奏会へ向けて気合いが高まってくるようで楽しかった。最初、この関西演奏会を企てた時には、裏方に徹するつもりであったが、ありがたいことに第2回演奏会の舞台監督が自弁で助っ人に来てくださることになり、私も大合奏曲2曲に出演することが出来た。

本番は、音楽監督はじめ出演者の誰もが“どの曲も本番が一番良かった”と口を揃えるほどの上出来であった。キツキツが予想された進行は優秀な舞台監督のおかげで予定ピッタリに終わった。少々案じていた集客も七分ほどの入りで盛会になった。打ち上げが多いに盛り上がったのも嬉しかった。

すべてにおいて上手くいった。私が一応言い出しっぺと舵取りをやらせていただいたが、半ば過ぎからは関わってくださった一人一人がそれぞれに良い役割をされ、会を成功裡に終えることが出来た。この場を使いすべての人に感謝申し上げる次第である。

しかし、いつも感じていることであるが、育成会とは不思議な集まりである。一年制の講座のため毎年受講生が入れ替わり、期が違うと基本的に接点は生じない。それがなぜか「育成会」というだけで、“同じ釜のめし”的な絆や連帯感を持つのである。今回の演奏会に向けてもその絆や連帯感のおかげで、運営、進行がスムーズに運んだことは論を俟たない。やはりこの組織が消滅してしまったことは邦楽界にとって大きな痛手であった。今後の課題として育成会に代わる教育機関を作るべく模索していかねばならないと考える。その意味においても関西でこれだけのことが出来たことは収穫であった。

 

かくして私の2014年は目出度く終わった。ほんとうに充実した面白い1年だった。
この良い流れに乗り、2015年も多くの人に喜んでいただけるよう、また自身も成長出来るよう邁進して行きたい。

 

 

 

 

 

 

随筆石と竹「メインエベント」” に対して5件のコメントがあります。

  1. na☆co より:

    (今さらながらの話題で恐縮ですが)
    昨年12月の、関西初となった「NHK邦楽技能者育成会同窓会第3回演奏会”現代邦楽『考』”」の経緯、
    うなりながら拝見しておりました。
    第1回開催の存在を知った時から、そのうち関西でも開催してほしいなぁ~と思っておりましたので、
    願いが叶ったとても嬉しい12月7日でした。
    ただでさえ演奏会の開催は大変だと思いますが、
    関西は京都を皮切りに、今後、大阪・神戸などでもあれば嬉しいです。

    第3回の言いだしっぺ、ありがとうございました!!

    1. admin より:

      na☆coさん
      コメントありがとうございました。無事にご来聴いただいていたのですね。
      演奏会は予想を上回る盛会となりました。出演者それぞれがお客さんにならず、置かれた立場を感じ取られ、動いてくださった成果だと思います。ほんとうに嬉しかったです。
      めちゃめちゃくたびれたので、“またやって”と言われれば逡巡してしまいますが・・・。

      1. na☆co より:

        お返事ありがとうございます。
        本当にお疲れ様でした。
        できれば、今度は石川先生からバトンを受け取って次世代の若手の方が中心になって展開していくといいのになぁ…と呑気に思ってしまいます。
        聴衆でしかない私は何もできることはありませんが、
        邦楽を一緒に楽しめる友人を徐々に増やしていけたらなぁ…と思い、
        演奏会がある度にとりあえず誰かに声を掛けてみることにしています。

        今後ともどうぞよろしくお願い致します。

        1. admin より:

          さっそく返信をありがとうございました。どうしても閉鎖的になりそうな邦楽界においてna☆coさんの存在は貴重です。今後とも様々な形で参加、応援くださいますようにお願いいたします。石川利光

          1. na☆co より:

            私の方こそ、無教養な上、失礼も多々あると思いますが、私なりに邦楽を通じて学ぶこともあり、自分の世界が今までより少しは豊かになった気がします。
            こちらこそ、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

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