随筆石と竹 「東へ西へ」

私は人見知りと面倒臭がりという性格もあり、普段接する人は同業の人が殆どである。それが、この2ヶ月ほどのうちは珍しく、他ジャンルの人たちとご一緒させていただく機会が多かった。

11月には地唄舞のトキジョ先生からお声がけを頂戴し、東京都港区のイベントに出演した。”尺八を何か洋楽器とのコラボで”というリクエストで、ギターのハセガワさんに「イパネマの娘」と「枯葉」を合わせていただいた。ハセガワさんとはCD『石川ブロス』のジャケットデザインをお願いしたご縁から、もうかれこれ10年近い親交がある人であるが、ミュージシャンとしてお相手いただくのは今回が初めてであった。合わせ(リハ)が本番前日の1回のみしか日程が取れず、いささか心許なかったが、ハセガワさんは私がどのように吹いても見事に合わせてくださるので、本番は何とか無事に恰好をつけることが出来た。

その翌週には大分で、ピアノのナホコさんと合奏の機会をいただいた。ナホコさんは東京の音楽大学のご出身で、演奏、アレンジ、指導ほか何でもござれ、という優秀なピアニストでいらした。こちらでは、私がライフワークとする福田蘭童曲のピアノ&尺八デュオを2曲と、ナホコさんのアレンジによる「枯葉」を合わせていただいた。本番の会場は多目的ホールだったため音響がとてもいいとは言えず、”ピアノに対して尺八は完全に負けてしまうのでは”と危惧したが、ホールスタッフの判断でP.Aは入れずに生音で臨むことになった。ピアノの豊穣な音の海に漂いながら吹く尺八も楽しいことこの上ない。何とか尺八の音も引っ込みすぎず、お客様、ナホコさんに喜んでいただく演奏になり安堵した。

12月に入るともう一度港区のイベントがあり、ハセガワさんと「枯葉」、そしてピアノのミハウさんも交えて「ホワイトクリスマス」を演奏した。「ホワイトクリスマス」は当日の合わせのみで本番という、私には厳しい状況であったが、お二人にフォローしていただき多くの拍手を頂戴することが出来た。楽隊3名の場合、1人が危なっかしいメンバー(私)でも、2人が達者であれば何とかなる、という見本のような演奏であった。

その翌週には京都で『Vo.1 繪舞台 琳派ロック』という、何だかよくわからないパフォーマンス大会に出演の機会をいただいた。ここではお声がけくださったゲンザン師の子分の一人として風童メンバーとともに参加した。我々の内容は、八咫烏をイメージしたカラスの装束を身につけ、客席から吹きながらステージに上がり、即興的な演奏を数分間行う、というものだった。実際にやってみても何だかよくわからなかったが、周りの人には喜ばれたようなので良しとしたい。そのイベントの特別ゲストとして、伝説的ギタリストのイノウエさん(太陽にほえろ!)や、シターラのイシマさん(フラワー・トラベリン・バンド!)、パーカッションのノヴさん(タモリの音楽は世界だ!)などがおられ、共演の機会こそなかったのであるが、幸運にも同じ楽屋で同じ空気を吸わせていただいた。やはりこの人達は存在感自体が違う。ゲンザン師、イノウエさん、イシマさん、そしてこのイベントのプロデューサーであるキーヤン師達は皆70代、少し若いノヴさんでも65歳でいらっしゃる。それが、どのお方もその年齢を感じさせないほど身体からエネルギーが放散されまくっていた。50代の私などは、まだまだハナタレ小僧だということを実感した。 この舞台にはトップに出演し、その後カーテンコールまで待ち時間だったので、舞台袖から次々に起こる万華鏡のようなシーンを鑑賞した。とても面白く色々なパワーが凝縮された時間であった。うまくいけば2020年まで続くとのことなので第二回以降を楽しみにしたい。

 

ところで、私は本年、某音楽ホールの音楽賞選考委員に任命された。仕事内容は、そのホールで行われる音楽賞対象のコンサートやリサイタルを聴き、音楽賞候補公演を推挙する、というものである。そのお話をいただいた時には、不肖私がそのような大役をお引き受けして良いのかしらん、と逡巡したのであるが、人様のお役に立てるならば、と謹んでお受けした。対象演奏会は年間で40公演ほどあり、何とか25回ほどは本業の合間を縫ってステージを鑑賞した。それ以外の公演は後日送られてくる録音CDを選考資料とした。ホールの性質上、その大半がクラシック音楽である。まだ音大生のフレッシュなデビューリサイタルから、斯界では著名な大御所の先生まで、多種多様なプログラムを聴かせていただいた。この経験も、自分の、音楽に対する取り組みへの大いなる参考、刺激となった。

 

今年は例年にも増して多忙な日々を過ごすことになったが、一番の大きな収穫は”自分にはまだまだ勉強、修行しなければならないことが山積している”ことが明らかになったことである。お世話になった多くの方々からいただいた感動や勇気を糧に、来年も少しでも前に進んで行きたい。

2015年もありがとうございました。

 

 

 

 

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