随筆石と竹 「らず」

”おにぎらず”がブームである。

”おにぎらず”とは、具をごはんで挟んだサンドイッチのようなものである。作り方は、大きい海苔(”おにぎらず専用”という商品もある)の上にごはんを広げ、その上に具材を置き、二つ折りにする、あるいは海苔で包み込む、というものである。”おにぎり”のように握らないので”おにぎらず”、うまいネーミングである。

ネットで調べてみるといろいろわかった。

最初に紹介されたのは、もう20年以上前の1991年の漫画「クッキングパパ(作者うえやまとち)」で、考案者はうえやま氏の奥様とのこと(その頃は私も掲載誌コミック・モーニングは愛読していたので目にしたはずであるが、まったく記憶にない)。

それが昨年の2014年9月初旬、クックパッドの検索キーワードに初めて登場し、同月末にニュースとして取り上げられてから人気に火がついたとのこと。クックパッドには現在、1300を超える”おにぎらず”レシピが紹介されていて、普通”おにぎり”には入れないような”チキン南蛮”や”トンカツ””目玉焼き丸ごと”などが挟まれたボリュームたっぷりのものもあり、写真を見ているだけでも楽しい。

そこで、物は試し、と私も作ってみることにした。初めてなので私なりに慎重を期し、スーパーでおにぎらず専用海苔を購入、具材はあまり凝らずに鮭のフレークと、ハム&チーズ&胡瓜&レタス(ほとんどサンドイッチ)の2種とした。海苔の袋に載っている作り方でやってみるとアラ簡単!神戸のクッキングオヤジでも、短時間で手も汚さずに作ることが出来てしまった。一つずつラップで包むと見栄えも悪くない。そして、食してみると期待に違わぬ美味しさで大満足、”これはアリやなあ”私は一人悦に入った。今度はクックパッドに紹介されているような凝った具材で作ってみたい。

 

ところで、私の住む町でも、毎年8月に町内の公園で盆踊りが行われており、偶々その日に在宅していたので数年ぶりに覗いてみることにした。歩いて公園へ向かう途中、”盆踊り大会”などと書かれた提灯がそこここに吊り下げられ、また、スピーカーからの音頭が聞こえてきて期待感が増してくる。いよいよ公園に足を踏み入れると、広場中央部には櫓が建てられ、その足元に人ひとりが通れるような柵が拵えてある。そしてその柵の中では、揃いの浴衣を着たご婦人達がしっとりと踊っておられた。敷地内の2箇所にでんと据えられた大型スピーカーからは、変わらずに何とか音頭が大音量で流されていた。

ところが、その柵以外では、友人とくっちゃべっている人、ボール掬いなどの露店のゲームに興じている人、飲食物や”当て物”を買うために並んでいる人、などなどで、踊っている人は全くといっていいほど見あたらなかった。私の記憶では、数年前に来た時には、柵の外でも二重ぐらいに輪になって踊っている人達が少なからずいらしたはずである。何だか、たかだか数年で光景がまるで変わってしまっていた。

私は、ある種この寂寞とした光景を目の当たりにして、心の中で叫んだ。”こんなの盆踊りじゃない!盆踊らずだっ!”

皆で踊るから”盆踊り大会”なのである。保存会のご婦人連しか踊らないなら”盆踊らず大会(一部盆踊り)”などと表すべきである。”盆踊り大会”は偽装でしかありえない。私は一瞬にして失望し、”こんなんでええんかい”とぼやきながらそそくさと会場を後にした。

他の地域ではどうなっているかは知る由もないが、全国的に”盆踊り”が”盆踊らず”になってしまっていっているとしたら、それは寂しいものである。

 

閑話休題、私はもうここ何年も毎秋リサイタルを開催させていただいている。これは、ご支援下さり、会場に足を運んで下さる人達のおかげで、ありがたいとしか言いようがない。この数年はソロリサイタルと、石川ブロスのジョイントリサイタルを”かわりべんたん(交互に、という意味)”に行なっている。

今年はソロの年となり、恩師横山勝也先生への追悼プログラムとした。この内容は数年前からあたためていたもので、自身の中でようやく時機が整い開催に至った。

タイトルはいくつか候補を考えたが『供竹(読み方はお任せ)』とした。前半、後半の二部構成で、第一部は尺八古典本曲の中から先生がこよなく愛されていた作品を3曲、そして第二部は先生の作曲作品を4曲取り上げた。夏の終わり頃からだんだんと準備を始め、いよいよあと数日に迫った。ほぼ毎日、先生の音源を聴き、自身の練習と比べているが、先生の偉大さ、凄さ、そして、自身の矮小さ、貧弱さに言葉も出ない。今さらながら”何と大きな師であったか”ということを痛感させられる。ツヤツヤした音色、生命エネルギーに溢れまくった音そのものが私を叱咤する。途方に暮れてしまいそうになるが、しっかし、ここはやるっきゃない。本番当日まで考えられる準備をして臨みたい。

”笛吹けど踊らず”ではなく、私の笛で”皆の心が躍る”ような音を出したい。

 

 

 

 

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