随筆石と竹 「顔」
私は自分の顔がキライである。
低い鼻、鼻より前に出た唇、目の下に幾重にも重なったクマ、やつれたようなほっぺた、すっかりハゲ上がってしまった頭、冴えるものは何一つない。毎朝洗面台の鏡に現れるオッサンにはゾッとして、目をつぶって顔を洗い、目をつぶって歯を磨く。私が昔から写真やビデオに興味を持てなかったのは、自分の顔がキライだったことが大きい。
幸いなことに、これまでは自分の顔や姿がマスコミに登場することは殆んど無かった。
それが昨秋、立て続けに自分の顔がテレビに出てしまった。
はじめは、BSジャパンというテレビ局の『ワタシが日本に住む理由』という1時間番組に、門人のロシア人尺八奏者ボンダルチュク・パヴェルさんが取り上げられたことによる。
ある月の岡山レッスンの日、新倉敷駅に降り立った私は、いつもなら一人で迎えに来てくれるパヴェルさんの周りに3人の日本人がいることに気がついた。訝りながら近づいていくと、その中で最も年配らしき人がおもむろに「今日はよろしくお願いします」と挨拶してこられた。私は???の状態であったが、とりあえず「あっ、はい。こちらこそよろしくお願いします」と生返事を返した。よくわからないまま頭をフル稼働させると、数日前、”次のレッスンは取材が入るかもしれません”という旨のメールが来ていたことを思い出し、そこでようやく3人さんが番組のクルーであることを認識した。
駅前で少しインタビューを受けた後、30分ほど車に揺られ稽古場の美星中央公民館へ到着した。次はレッスン風景を撮りたいとのことである。いつも通りのレッスンで構わないとのことなので最初の音出しから進めていくと、ピリッとした空気の中でのレッスンがスタッフさんには新鮮だったようで、半ば興奮しながら撮影されていたのが面白く、また嬉しかった。一通りレッスンが終わった後は私へのインタビューである。およそ想定しうる内容の質問であったが、自分の考えを瞬時に纏めて言葉にすることは存外難しかった。この日の私への撮影はこれで終了。レッスンとインタビューでおよそ1時間であったが、チーフディレクターにたいそう喜ばれたので、何とか役目を果すことが出来たか、と安堵した。
一ヶ月半ほど経ってその番組の放映日がやってきた。BSの夜の番組など、どれほどの人達が視聴するのだろう、と思っていたら、放映時間中から「見てますよ」「いきなり石川さんが画面に登場してビックリ!」などというメールが数件入ってきた。放映終了後にはさらに数件のメールが届き、年明けの何枚かの年賀状にも「見ましたよ」というメッセージが書き添えられてあった。あらためてテレビの浸透力のすごさにおそれいった。
拙宅にはテレビが無いので、その番組は後日送られてきたDVDで初めて観た。ロシア人イケメン尺八吹きのパヴェルさんは画面を通してもシュッとして恰好よく、MCの高橋克典さんとツーショットになっても引けを取らない。それにひきかえ私の方は毎朝洗面台の前に現れるハゲオヤジそのままで、スタッフに「お願いですから私の顔にはモザイクをかけてください」と懇願すればよかったと心から思った。
2本目は、その番組を視た岡山県のローカルTV局のディレクターが、”自分の局でもパヴェルさんを特集したい”とのことで、やはり尺八のレッスン風景と私へのインタビューという内容で収録された。こちらは前回と違い、夕方のニュース番組の中の特集コーナーだったため、私の登場はずいぶん短く、ほっと一安心であった。しかし、やはり自分の顔にモザイクをかけたい気分は前回同様であった。
何はともあれ、両番組共にパヴェルさんのPRになり、微力ながら少しでもその応援が出来たので良しとしたい。
もう当分はこんな話は来ないだろうと思っていたら、今度はなんと私自身に番組収録の話が来た。『未来への伝統』というタイトルのインターネット配信の番組で、私と、京都在住の女性尺八奏者をメインで取り上げたいとのこと。収録は2017年の1月~2月の予定で、こちらの番組は台本が用意されるらしくちょっぴり気が楽である。しかしながら、自分の顔や姿がパヴェルさんの特集よりも長く画面に出てしまうことは確実である。
そこで、人様の前にこの顔を晒すにはどうすればいいのかを考えた。
虚無僧の天蓋(てんがい)を被って登場し最後まで外さない、プロレスのマスクマンみたくマスクを被って出演する、目のところに黒い線が入るよう工夫する・・・いやいやどれも実行不能な下手な考えに過ぎない。
そうだ、こうなったら開き直って、いつも笑うことにしよう。自分の顔は親からいただいた唯一無二のものである。感謝の心を忘れずにニコニコしていると、きっと道は開けてくるはずである。
収録日よ、いつでも来なさーい!
私も石川プロ以上に禿げ上がっております、結婚する前からバーコード頭で常に分け目を風上に向けて歩き、プールから上がる時も分け目から先に頭を出しており、外出時は常に帽子を着用しておりましたが、40歳になる頃開き直ってバリカンで坊主頭にしてからは気にしなくなり、むしろこの頭を売り物にして楽しんでおります。先日も施設の慰問演奏に参加した際に司会者の方から「あのお坊さんのような頭の方は○○先生です」と紹介され、両手を合わせてお辞儀をするとヤンヤンの喝采を頂き盛り上がりました。<演奏で盛り上がると良いのだが> 今でも「可愛いイイ」と言って撫でてくれる女性(お歳しは?)も居ますヨ。男はミテクレではないですヨ(ヒガミか?ツヨガリか?)石川プロ、共に大いに禿げ散らかしましょう、親譲りの容姿を売り物に!。
高田琮山様
アップ早々に元気と勇気の出るコメントをありがとうございました。私も現在は開き直っております。中身で勝負ですね!
今年もよろしくお願いいたします。感謝!!
石川利光拝
傑作な秀文を拝見いたしました。あえて申し上げるなら親から引き継いだ大事なFACEを愛しく、大事に
自信も持ってCAREし最高の自己満足なお顔にすることが親への敬意と思います。
私も50年前の写真は櫛が途中で止まるほどの髪量でした。今はQBハウスで10分以内で終わる頭部ハサミいらずの頭になりました。元に戻らぬことはあきらめて現状を披露するしか仕方がないです。
石川先生がトップにアップした動画を期待しています。駄文で失礼します。
田村浩一様
いつもご感想をお書きいただきありがとうございます。
自分なりに前進したく存じます。
本年もよろしくお願いいたします。
石川利光